二軒長屋に暮らす
設計/山之内裕一・山之内建築研究所
住まいづくりは計画から完成まで少なくとも数ヶ月、いや数年を要することもある。その間、設計条件などの細かな変更に丁寧に向き合わなければならない。設計者は単に打合せ会議の司会役だとしても、単身者の戸建住宅でもない限りその手間は計り知れない。
今回クライアントは集まって暮らすことを決心した姉と妹の二家族。子供を含め総勢7名の二世帯二住居の二軒長屋である。設計時には打合せ会議に参加できなかった子供たち。彼らの将来の暮らしをも見据えて、両家族の大人たちが徹底的に話し合い知恵を出しあった住まいづくりの例である。
敷地は、間口に対して3倍の奥行きがある南北に細長い形状。道路は北側にあり、4台分の駐車スペースを用意している。二軒の住居は南北に配置し、南側住居は1階を利用し、北側住居が2階を利用できないかと考えた。北国では太陽光を公平に享受することが求められるからだ。幸い太陽は朝から夕方まで常に移動している。したがって開口部や庭の位置を的確に配することで有効に光を取り込む工夫が可能となった。最終的に将来の所有形態を考えて、前面道路から通路階段を共有しない共同住宅の形式である長屋建てを選択した。仮に住まい手が変わったにしろ住居二軒つかず離れずの「ほどよい距離感」をどうつくるかが大切。その意味で、お互いの気配を感じられるようにガラスブロックを有効に利用した玄関まわりの意匠としている。
昨年、10年目の点検に山鼻の二軒長屋を訪れた。クライアントの皆さんの変わらない笑顔に触れたとき、集まって暮らすことが目的ではなく、生き生きと暮らすことが真の目的なのだと感じた。ブロック造住宅は、それを可能にする役に立つ道具のひとつだと考えている。
山鼻の二軒長屋 詳細情報
- 所 在 :札幌市中央区
- 構造・規模 :補強コンクリートブロック造、一部木造混構造
- 敷地面積 :374.33㎡
- 延床面積 :367.44㎡
- 設計監理 :山之内建築研究所/山之内裕一
- 施 工 :札建工業株式会社
- 竣 工 :2002年
- 写真撮影者 :札建工業