2026年3月決算を振り返る 

週刊ブロック通信・論説委員 黒澤晴彦

上場コンクリート製品メーカー11社の2026年3月期決算は、9社が増収営業増益となった。前期の8社からさらに増加し、全体の8割超が増収営業増益を達成した。一見すると、コンクリート製品業界全体が回復基調へ入ったように見えるが、決算内容を丁寧に見ていくと、それは単純な「市況回復」ではなく、むしろ企業間の構造的な差異が、これまで以上に鮮明に数字に表れ始めた決算だったといえる。

2026年3月期は、これまでの単なるコスト吸収段階からさらに一歩進み、「どの市場で利益を確保するか」が問われ始めた印象が強い。需要環境そのものは底堅い一方、人手不足や建設コスト上昇が続く中では、すべての案件が利益につながる時代ではなくなりつつある。象徴的なのが、ベルテクスコーポレーションやヤマックスの動きだ。ベルテクスコーポレーションは、九州地区の収益性の高い大型案件を取り込み、販売単価見直しによる利益改善を進めた。ヤマックスも、半導体関連インフラや防衛関連需要を背景に土木用セメント製品事業が堅調に推移し、建築用セメント製品事業でも、沖縄地区の米軍施設向け大型案件が寄与した。重要なのは、単に「大型案件に恵まれた」ということではなく、利益の取れる市場を見極め、そこへ経営資源を集中させている点だ。

今年の決算では市場ごとの差も鮮明となった。特に象徴的だったのが、コンクリートパイル関連企業の明暗だ。アジアパイルHDは国内・海外ともに収益が改善し、大幅増益を確保。日本ヒュームも、下水道関連事業や道路用プレキャスト製品が伸長し、基礎事業以外の分野が業績を下支えした。三谷セキサンも、情報関連や環境衛生など非製品系分野を含めて過去最高業績を更新した。これに対し、日本コンクリート工業は、主力のコンクリートパイルで建設コスト上昇や着工遅延の影響を受け、減収大幅営業減益となった。これは同社の業績だけが不振だったということではない。同じパイル市場を主戦場とする企業でも、周辺事業の構成や重点市場、価格転嫁の進捗度合いによって収益差が拡大している。言い換えれば、今回の決算では「パイル市場が厳しい」というよりも、「市場環境変化への対応力」が問われたとも言える。

こうした変化は、先週号に掲載した武井工業所、武井厚社長のインタビューにも色濃く表れている。同社は、3Dプリンター導入による施工合理化や省人化、特注部材対応を進める一方、DXによる出荷情報共有や顧客サービスの高度化にも取り組んでいる。そこには「製品を作る会社」から「施工全体を支える会社」へ変わろうとする意思が感じられる。特に印象的なのが、「多少コストが上がっても、確実に施工できるのであれば採用するという判断が広がる可能性がある」という指摘だ。これは単なる3Dプリンター論ではない。人手不足や工期制約が深刻化する中で、発注側が求め始めているものが「コスト」だけではなくなっていることを示唆している。

従来、コンクリート製品業界の競争力は、「どれだけ安く、早く、大量に供給できるか」に置かれてきた。しかし今後は、それだけでは差別化が難しくなる可能性が高い。

施工を成立させる提案力/人手不足へ対応する省力化/DXを含めた情報提供力/脱炭素への対応力/安定供給体制

こうした「供給価値」そのものが、企業競争力として評価され始めている。武井社長は、「製品そのもので差別化を図ることが難しい領域もある」と語っている。サービスやオペレーション、施工合理化を含めた「売り方」で差をつくる必要があるという認識だ。

今回の決算で業績を伸ばした企業の多くも、まさにこうした供給価値の強化へ踏み込み始めている。国土強靱化、防災・減災、下水道更新、半導体、防衛――。中長期的な需要テーマは依然として存在している。しかし、人手不足や建設コスト高騰が続く中では、単純に「需要がある」だけで利益を確保することは難しくなりつつある。

これから問われるのは、「何を作るか」だけではない。どの市場で、どのような価値を提供し、どう施工を成立させるのか――。2026年3月期決算は、コンクリート製品業界が「量の競争」から、「供給価値の競争」へ移り始めていることを示した決算だったのではないか。

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