建築の時間割
山之内裕一・山之内建築研究所
住宅のある札幌市真駒内は、北海道における寒冷地住宅の出発点となった三角屋根ブロック住宅が数多く建てられていた地域。(平成26年5月19日号掲載)新築時クライアントはその歴史に深く共感し、コンクリートブロック造住宅を新築した。それからクライアントと私たちは木製サッシや外壁木羽目板の塗装、設備機器等のメンテナンス、それらの相談と対話を今日まで重ねている。つい先日は今までとは少し異なり、クライアント自身が高齢化したことによる相談があった。日常的な暮らしの中心は居間で、陽当たりの良い2階にある。居間は、手入れの行き届いた庭を眺められるクライアントお気に入りの居場所だ。ところが最近、2階居間への階段昇降に不安を感じるようになったという。
実は30年前の新築設計時、昇降機(住宅用エレベーター)の必要性がいつの日か訪れることを想定し、数㎡ほどのスペースを外部に確保している。私がそのことを告げると、想い出したかのようにクライアントの表情が明るくなった。これから本格的に、住宅用昇降機設置に向けた詳細検討を始めることになる。30年前に計画を立ててはいるものの念のため室外に外付けするか、あるいは室内に昇降機スペースを割くかを検討したのだが、結論は当時のまま変更なし。 予定では数か月後、昇降機による利用が可能になる。そして庭に面して昇降機シャフトによる新しい外観が誕生する。ただし住宅の印象は変わらない、というのも3方コンクリートブロック壁だからだ。この30年間、周辺住宅群は建て替えられまたは改修され、かつての姿を想い出せない。同じ時間のなかでコンクリートブロック造住宅は積層する記憶を残し、長く地域の風景のひとつになる。つまり長く残る建築は、私たちの建築の時間をつくっている。これが30年前に想定された建築の時間割なのだと私は考えている。
南面全景 南面拡大 居間 階段窓 外付けEV計画
真駒内南町の家
- 所 在:札幌市南区真駒内
- 構造規模:補強CB造2階建
- 敷地面積:327.28㎡
- 延床面積:124.97㎡
- 設計監理:山之内建築研究所/山之内裕一
- 施 工:内池建設
- ブロック施工:渥美工業
- 竣 工:1994年
- 改修予定:2025年
- 既存撮影:安達治
- 現況撮影:山之内建築研究所