プレキャスト原則化はどこまで進むのか
週刊ブロック通信・論説委員 黒澤晴彦
日建連と、国交省関東地方整備局および管内都道府県公共発注機関による意見交換会が開催され、日建連は重点テーマの一つに、「プレキャスト工法の活用拡大・規格化の推進」を挙げた。背景には、時間外労働規制への対応、技能者不足、猛暑下での現場作業負担の増大など、従来型施工だけでは対応が難しくなりつつある現場実態がある。
日建連側は、プレキャスト工法について「工期短縮や安全性向上だけでなく、猛暑対策や省人化にも効果があり、建設現場の生産性向上に大きく寄与する」と強調。その上で、設計段階からの積極採用や、施工段階における柔軟な設計変更対応を求めた。
日建連が示した資料によると、国の道路・河川工事でプレキャスト工法が採用された構造物のうち、設計段階からの採用割合は36%にとどまった。一方、施工段階から採用されたケースでは、発注者負担となる設計変更よりも、受注者負担による施工承諾の割合が多い実態も示された。
これは、プレキャスト化がなお、「受注後の工夫」に依存している現状を意味する。現場側が施工合理化や工期短縮を目的に提案しても、設計変更ではなく施工承諾として処理されるケースが多く、結果として受注者側負担が残りやすい構造があるということだ。また、国の道路・河川工事で採用されたプレキャスト製品のうち、ハーフプレキャストの割合は19%にとどまっており、日建連側は「フルプレキャストでは運搬が課題となる場合でも、ハーフプレキャストによる部材の小型化・軽量化は非常に有効」として、その活用拡大を訴えた。
一方で日建連は、プレキャスト工法が採用されなかった理由として「コスト」を挙げる割合が高い実態にも触れた。特に大型構造物では、現場打ちとの価格差が採用上の課題となっている。日建連は、北陸地整や近畿地整、中国地整などで独自のプレキャスト選定マニュアルが整備されていることを紹介したほか、本省が令和8年3月に策定した「VFMによるコンクリート構造物の工法比較に関する実施要領」にも言及した。同要領は国土交通省直轄工事に適用され、内空断面35㎡以下のボックスカルバートについては原則プレキャスト製品を適用するとしており、日建連は原則プレキャスト化や標準化・規格化を含めた活用促進を求めた。
こうした動きは、プレキャスト化が単なる技術提案の段階から、制度運用そのものを見直す局面へ入りつつあることを示している。今回の意見交換会で見えてきたのは、プレキャスト化を「個別工法の選択肢」として扱う段階から、「施工体制維持のための社会的インフラ」としてどう制度化していくのかという議論へ移りつつある現実だ。そして、その具体的な踏み込み方については、発注機関ごとに温度差もみられた。
最も踏み込んだ回答を示したのは関東地方整備局だ。同局は、予備設計または詳細設計段階において、運搬可能な規格構造物について原則プレキャスト化を進めていると説明。本省実施要領を踏まえ、L型擁壁についても原則プレキャスト製品を選定する方向が示されたことを受け、「改めてプレキャスト工法の活用について管内各事務所に周知した」と回答した。また、ハーフプレキャストやサイトプレキャストも含め、積極的に活用を進める考えも示した。この回答からは、関東地整がすでに「プレキャストを採用するかどうか」を議論する段階ではなく、「どこまで原則化・制度化を進めるか」というフェーズへ入りつつあることがうかがえる。
一方、茨城県の回答はより現場実務型だった。同県は型枠工不足などを背景に、令和7年度から集水ます、帯コンクリート、傘コンクリートについて原則プレキャスト化を実施していると説明。さらに本年度からは、内部断面2.0×2.0m以下のボックスカルバートや防草コンクリートブロックについても原則プレキャスト化の運用を開始したことを明らかにした。ただし同県は、より大型のボックスカルバートについては現場打ちとの価格差が大きいとして、「もう少し検討が必要」とも述べている。ここには、多くの自治体が抱える本音も透けて見える。
実際、栃木県、群馬県、埼玉県、東京都などの回答をみると、「積極活用」「導入推進」といった表現はあるものの、その多くが「条件に応じて」「経済性を踏まえ」「他自治体の動向を参考に」といった留保付きだった。
もちろん、発注機関側の慎重姿勢には理由もある。都市部では搬入経路や施工ヤード、交通規制、埋設物など現場条件が大きく異なり、一律的な標準化が難しいケースも少なくない。また、設計段階からプレキャスト化を原則化すれば、発注者側には「なぜこの工法を選定したのか」という説明責任も生じる。
しかし一方で、資材価格やエネルギー価格、労務費、物流費などの上昇は長期化の様相を見せている。さらに中東情勢など地政学リスクを背景に、今後もインフレ圧力が続く可能性は高い。そうした中で、依然として「初期コスト比較」が工法選定の中心に置かれ続ければ、将来的には施工能力そのものの維持が難しくなる恐れもある。
型枠工をはじめとする現場技能者不足は、すでに一部地域では顕在化し始めている。プレキャスト化は単なる施工合理化ではなく、「人が減る社会の中で、いかに施工体制を維持するか」という問題でもある。
今回の意見交換会で見えてきたのは、「プレキャスト推進をどこまで制度化し、どこまで原則化するのか」という運用段階の議論へ入りつつあるということだ。そしてその議論は、今後の製品規格、工場投資、物流、さらには地域ごとの供給体制にも影響を及ぼしていく可能性がある。理念から実装段階へと局面を変え始めたプレキャスト工法の活用拡大・規格化の推進。その真の狙いがどこにあるのか――。単なる工期短縮や省力化にとどまらず、人が減る時代においても社会インフラを支え続ける施工体制をどう維持していくのか。いま改めて、その原点に立ち返ることが求められている。


