シンプルな接合部
山之内裕一・山之内建築研究所
いつも本棚にありながら、背表紙を見つけただけで安心し年に数度しか手に取らない本がある。「建築ディテールの考え方(広瀬鎌二・三宅敏郎共著、彰国社1963年)」もその一冊。新しい建築のディテール(詳細)を集録するものではなく、詳細そのものをチェックする方法の確立を目指した書籍である。いわば詳細を見る物差しを提供するという本質的な考えに、私は共感する。「建築や構法やディテールは、接合にはじまって接合に終わるといってもよい。」とは本文からの引用。 さて、5月および6月に書いた「CB造住宅にエレベーター増築」現場がようやく完成する。今月は、既存部と増築部との「接合部」に注目したい。多くの部品の集合からできている建築は、部品同士の接合部が重要。接合部は目的に対して的確に考えられ、単純で明快な解決が望ましい。今回の事例では、エレベーターからの移動が無理なく自然に行われるのが目的だと考えた。エレベーターの出入り口扉幅は930mm、高さ1900mmである。そこで新設される既存住宅の接合部も同程度の幅と高さにすることで違和感のない移動を実現できると考えた。増築エレベーター本体は1階では玄関ホールと接し、2階では外部テラスを室内化して接合部とした。さらに詳述すると、1階接合部では指向性ガラスブロックをスリット状に2000mmの高さまで積み、白色のエレベーター扉に自然光を効果的に拡散させた。玄関ホールの窓を無くした代わりに自然光を取り込む目的があった。2階接合部は、あえて450mm程度のフカシ壁(背後に空洞を持つ壁)を設け、壁幅はエレベーター扉同様の930mmに限定した。手摺が無くても両手を広げると壁に触れられる、転倒防止に役立つスケール感を求めた。さらに天井高さは1階2階共に2m強に抑えている。エレベーター室内から既存住宅へ連続するシンプルで無駄のない接合部を意図したからである。
1階GBのある接合部 2階既存CB壁と接合部 2階接合部 2階接合部のフカシ壁
真駒内南町の家 詳細情報
所 在:北海道札幌市南区真駒内
構造規模:補強コンクリートブロック造、2階建
改修構造:木造
設計監理:山之内建築研究所/山之内裕一
改修施工:エムイー・ワイ株式会社/目谷康雄
改修ブロック施工:よねざわ工業株式会社
ELV工事:パナソニックエレベーター株式会社
改修竣工:2025年
改修撮影:山之内建築研究所