コンクリート三次製品のための発想力(近畿大学のケーススタディ)

週刊ブロック通信論説委員 武井 厚

株式会社武井工業所 代表取締役

 

 

はじめに

中国発のパンデミックがまだ終わっていないというのに、ロシアがウクライナ侵攻を始めてしまいました。落ち着かない日々がどうやらまだ続きそうですが、最近ではテレビや新聞で「値上げ」のニュースを見ない日もありません。42年間にもわたり10円(しかも税込!)の価格を維持してきたあの「うまい棒」が、ついに4月から12円に値上げするというニュースが象徴的です。さらには、サイバーセキュリティ、メタバース、デジタルトランスフォーメーション、サブスクリプション、カーボンニュートラル、ESG経営、ジェンダー平等、ハラスメントフリー、そしてSDGs…このようなキーワードが怒涛の如く日々押し寄せてきて、強迫観念のように頭から離れません。

入試の合格難易度ごとにひとくくりにした大学群の名称として、昭和の時代から使われているのが、首都圏では「MARCH」や「日東駒専」、関西では「関関同立」や「産近甲龍」。語呂合わせで覚えやすいので、大学の難易度の序列イメージが固定化されやすく、それぞれの大学自身が、努力してそのイメージを変えるのがとても困難なのは想像に難くありません。

いま志願者数が最も多い大学はどこかご存じですか?

正解は近畿大学です。志願者数は2021年までなんと8年連続の日本一。最近では近大マグロが話題になってはいますが、近畿大学が志願者数日本一というのは意外に感じませんか。当時高校生だった筆者は関東地方の大学しか志望しておらず、近畿大学については「そういえば関西にそんな名前の大学あったなあ。」といった認識でした。ところが、いまでは全国に名を馳せる志願者数が日本一のブランド校です。

どうして、そうなれたのか?そこには多くの人に刷り込まれた語呂合わせの序列イメージを破壊して、迫りくる厳しい時代を生き抜くための戦略があったようです。

大学にとってのお客様となる18歳人口は少子化により1991年には204万人でしたが、2018年には118万人まで減少しました。いわゆる序列が低い大学が受験生を集められずに縮小や消滅をしていくと、残る大学のイメージは相対的に下がっていきます。つまり近畿大学にとって少子化は、将来の沈没につながりかねない荒波でした。対処するには「関関同立」「産近甲龍」という既成の序列イメージから近畿大学をいかに切り離せるかどうかがポイントです。そこで展開したのが、近大マグロに代表される高い研究力や、教育環境の充実などに加えて、それらをうまくPRするマスメディアを巻き込んだ大々的なブランド戦略です。

大阪のユニバといえば…

例えば、印象的な近畿大学の広告のコピーとして「大阪のユニバといえば、近大やろ」があります。一般的に「大阪のユニバ」といえば人気テーマパークの「ユニバーサルスタジオジャパン」を指します。この広告では、大学を表す英単語のユニバーシティにかけて「大阪の大学といえば、近大やろ」と言っているわけです。ご存じでない方は広告デザインもぜひ併せてご覧になってください。このコピーをウェブ検索して、近畿大学ウェブサイトの広告アーカイブからご覧になれます。テーマパークの広告をイメージした全体デザインのなかで、モデルさんが近畿大学の学生証を掲げています。その下部には「知のテーマパーク 近大のユニバーシティ年間パスを手に入れよう!」というコピーが記されています。学生証=年間パスということですね。やるならここまで突き抜けないといけないな、筆者はそう感じました。

その他にも、近大マグロをコンテンツとしてフル活用するなど、持ち味を生かした様々な切り口で広告を展開し、著名な広告賞を次々に受賞していることがこのアーカイブから分かります。どれも若者の興味をひく表現手法や、ウイットに富んだセンスあふれる広告ばかりです。さらに、近畿大学はウェブサイトのデザインやコンテンツが素晴らしいです。今の学生がどのように情報収集しているか、どんな情報に触れたがっているのか、そこにど真ん中のストライクを投げ込めていると感じます。従来型の多くの他大学のウェブサイトと比較すると、近畿大学のそれがより際立ちます。

さいごに

近畿大学は持ち味を生かしつつ、他大学とは明らかに一線を画した新発想のブランド戦略を展開し、18歳人口の減少という逆風のなかでも志願者数日本一という「量」の果実を得ました。しかも合格難易度が以前より上がっていて、同時に「質」も向上させています。語呂合わせによる序列の刷り込みを破壊して、ブランドイメージを新たに創りだし、パイが減るなかにあって量と質の両方を確保しているのは立派です。もし過去の延長線上の手法であれば、よくて量か質のどちらか一方だけ、悪ければ両方とも得られなかったでしょう。

この事例からは、激しくスピーディに変化する環境のもとで、難しい取組みを成功に導くためには、過去の延長線上にはない発想力がときに必要であることを学べます。

昔から「二次製品」と言われてきたプレキャストコンクリート製品。その二.五(2.5)次製品化、さらには三次製品化と呼べるような、新しい切り口の取組み事例をこの紙面で見ることが増えてきました。近畿大学は、元からある持ち味を生かすため、それを表現するための発想を変えたことで成功しています。全くのゼロからではなく、もうすでにある「二次製品」を生かす、そのための新しい発想をしたり、ときに外から取り入れたりしてみる。それが新たなチャンスへの近道になりそうです。

 

 

 

 

 

 

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