願いから確信へ
山之内裕一・山之内建築研究所
前回コラム(5月19日)は、30年前の計画通りに決まった昇降機(住宅用エレベーター)設置を報告した。コラムには「計画された建築の時間割」として、新設される昇降機がクライアントへ与える満足と、増築により外観デザインが新たな姿を見せることへの期待を書いた。しかしそれから数か月、すでに昇降機増築工事も半ばを過ぎた現在、ふと考えている。そもそも「計画」とは将来への楽観的願望であり、ないまぜの半信半疑を内包しているもの。約束もなくいつ訪れるのか分からない実行猶予の時間なのだが、それでも計画自体の持続可能な価値は信じられた。着々と進む現場では願望が現実になり、今まさに計画が実現しようとしている。
改修工事はどの場面も計画状況と問題解決のやり取りから始まる。新しく加わる防水や断熱の基本的性能を更新し、既存建物部分を可能なかぎり生かしながら改修工事が続いている。
日本エレベーター協会のホームページによると、昇降機は大まかに3種の方式(ロープ式、油圧式、その他)に分類される。今回は、ロープ式のうち巻胴式。1階床下ピットに設置した巻上機がワイヤーロープを作動させ、昇降機本体(エレベータールーム)を上下させるシンプルなシステムだ。エレベータールーム床は最小寸法ではあるものの、定員2名で市販の車いすが利用可能である。ともすれば暗くなる1階昇降機出入口まわりは、指向性ガラスブロックをスリット状に用いて自然採光を試みた。外壁は耐久性とデザインの統一性を考慮しコンクリートブロックを2m高に新規に積み、木造躯体の保護に役立てている。 同時並行で進めている木製サッシ塗装等のメンテナンスが終わると、いよいよ住宅用エレベーターのお披露目だ。高齢になったら階段の使用を補助する昇降機を設けましょうと、かつてクライアントへ提案した「計画=願望」が時空を超えて確かなものになる。そして、新しい建築の時間割が始まるのを私は誰よりも待ち望んでいる。
基礎コンクリート工事 木造軸組建て方 屋根防水工事 CB積 GBスリット採光
真駒内南町の家 詳細情報
所 在:北海道札幌市南区真駒内
構造規模:補強コンクリートブロック造、2階建
改修構造:木造
敷地面積:327.28㎡
設計監理:山之内建築研究所/山之内裕一
改修施工:エムイー・ワイ株式会社
改修ブロック施工:よねざわ工業株式会社
既存竣工:1994年
改修竣工:2025年
改修撮影:山之内建築研究所