住宅の通り・広場
山之内裕一・山之内建築研究所
私たち設計事務所の仕事は、毎日の現場作業が完了しクライアントへ完成建築を引き渡すと、一区切りします。その後の完成建築との関わりは、定期点検や維持管理を除くとほとんど無くなります。その時、私たちの手元には設計図書と写真などの記録だけが残ります。写真家・酒井広司さんに撮影していただいた居間の写真を眺めながら、私はふと考えています。クライアントと多大な時間を費やして話し合い、私たちが知恵を絞って提案したことがうまく建築として実現しているだろうか。今回も満点とはいかないまでも及第点はクリアしているようだ。竣工時の写真は私たちにとって自己採点の絶好の機会でもあります。 1階居間の四方は、10段積されたコンクリートブロック壁。南西側壁の一部は開口部とし、他の壁面はプライバシーを守る観点からコンクリ―ブロック壁としました。壁上部と天井は北海道産トドマツ合板仕上。天井はカラマツ無垢材によるステイ(方杖)で構造形式を表現しています。さらに天井にハイサイドライトを組み込み、そこからの自然光が2階奥に反射拡散し居間全体に逆光の影をつくりました。コンクリートブロック開口部とハイサイドライトの自然光が、食卓と椅子・対面式キッチン・TVスタンド・そして45度の階段が並置されているのを照らします。北国の居間は、冬場の長時間を過ごすさまざまな生活シーンの舞台であり、住宅の中心室としていわば都市の通りや広場のような役割を果たしていると考えています。通りや広場が居間なのだなあと、写真を眺めていると、イタリアの都市の通りが透視図法で描かれ、前方からの45度の光と影が印象的な絵画が思い浮かびました。輪回し少女といえば誰でも知っている有名な「通りの神秘と憂愁」というデ・キリコの絵画です。評論家の多木浩二氏は「都市や建築を考える人間に不思議な刺激を与える(絵)」(集英社:現代世界の美術第17集所収/記憶と忘却)と評しています。そして居間の写真とデ・キリコの画集を見比べながらの楽しい時間のなかで、豊かな日常が繰り広げられる住宅の居間になることを信じているのです。
厚別東(あつべつひがし)の家 詳細情報
所 在:北海道札幌市厚別区
構造規模:補強コンクリートブロック造一部木造、2階建
建築面積:81.27㎡
延床面積:110.91㎡
設計監理:山之内建築研究所/山之内裕一
施 工:株式会社松浦建設
ブロック施工:よねざわ工業株式会社
竣 工:2025年4月
写真撮影:酒井広司/グレイトーンフォトグラフィス





