まんじゅうこわい 論説委員 武井 厚

週刊ブロック通信論説委員 武井 厚

株式会社 武井工業所 代表取締役

 手指の消毒、うがいに手洗い、そしてマスク着用とオンライン会議の日々です。おかげで風邪ひとつひきません。うっかりマスクするのを忘れて外出してしまうと素っ裸でそこにいるような気がする今日このごろ、オンライン会議をやりながらITがこれほど発達する以前にこのコロナ禍になっていたら大変だったなーとか考えたりします。でも一度手にした便利さがなくなれば不便と感じるでしょうが、まだ手にしていない便利さは知らないですよね(当たり前です)。そして便利さに助けられている一方で、失っているものも確実にあるはずです(遠くへ行きたい、会って余計な話をしたい)。
 さらに今年は東日本大震災から10年という節目。「死」というものをうっすらと感じた、あの恐ろしく長くて大きな揺れはいまだに体感としてしっかりと記憶に刻まれています。そのくせ地震に対する備えはだんだんとおろそかに。怖い体験は忘れられないけど、その後の不便さは不自由のない生活を送っているうちに、つい忘れてしまうのかもしれません。このコロナ禍もいずれそうなっていくのでしょうか。そうだとしたらその日がとても待ち遠しいです。さて、駄文にしばしお付き合いくださいませ。

“7兆円という金額の大きさ”

 上場企業の2020年度の出張費や交際費などの経費が7兆円減少する見通しだそうです(2021年3月16日付日本経済新聞)。このインパクトをイメージしやすいモノサシがあります。国の公共事業費で2020年度当初予算6.8兆円です。上場企業の出張費と交際費などの経費の「減少分」と公共事業の「当初予算1年分」の規模がほぼ同じということに軽いショックすら受けます。公共事業費は世間では批判的な論調でしばしば話題にされます。でも、そもそもこれくらいの規模なのです(当初予算だけですが)。もっとエネルギーを注ぐべき別の先があるのではないかと言いたくなります。実際には中小企業でも交通費や交際費などの経費は減っているので、日本の企業全体ではもっともっと大きな減少額になっているはずです。ホームセンターなどいわゆる巣ごもり消費の増加で景気がよいとされる業界もありますが、企業の出張や会食の自粛により交通機関や飲食産業、ホテルなどの観光業を中心に全体としては供給過剰で需要不足な状況です。この状況を解消するために打ち出されたのがGoToキャンペーンでした。筆者はこのキャンペーンはなかなか的を射ている政策でスマッシュヒットだと考えていたのですが、因果関係はともかくとして感染者急増により停止されてしまいました。ちなみにGoToキャンペーンの予算は約1.7兆円です。

“財務省のポジショントーク”

 古典落語に「まんじゅうこわい」という噺があります。各々のこわいものについて話していた町の者たちが、まんじゅうがこわいと告白した男に意地悪をするためにまんじゅうを大量に送り付けるのですが、実は男はそれを見越してわざとまんじゅうをこわいと言っていたという噺です。主に金融の世界で自分が有利になるように市場心理をゆさぶるような情報を発信することをポジショントークというそうですが、「まんじゅうこわい」の男も意地悪を見越してポジショントークで大量のまんじゅうをまんまとせしめたわけです。

 日本の官庁でも冠たる存在の財務省が、そのポジショントークを盛大に展開していることは本紙の読者にとってはもはや常識でしょう。「国の借金は国民一人当たりにすると~」というやつです。「かわいい子供や孫にそんな多額の借金を残していいのか」という心理へと国民を誘導すべく、彼らは最新の国民一人当たりの国の借金額を毎年必ずわざわざ発表し、それをマスコミが大々的に喧伝します。税金や国の借金を使って得た資産として何をどれだけ保有しているの?その資産はどれだけの付加価値を生み出すの?という議論もあってはじめて、その借金の規模の大小について語れるはずです。体重100キロとだけ聞いて「そんなに体重があると必ず病気になりますよ」と言っているのと同じです。もし身長が2メートルならバランスとしてはさほど問題ないでしょう。でも、実際にその議論までやろうとすると議論百出で切り口があまりにも多く、話としてまとまりを欠き、しかも分かりにくいので盛り上がりません(この論説のように)。こうして「国民一人当たり」という一見してわかりやすい表現だけが、ポジショントーク的にますます独り歩きしていきます。落語では、男がこわいはずのまんじゅうをうまそうに全部食べきるのをこっそり見ていた町の者たちが、本当にこわいものはなにかと男にたずねます。すると男はこう答えます。「濃いお茶がこわい」

“我々の存在意義”

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、世界中の政府同様にわが日本政府も財政拡大しています。つまり国の借金をどんどん増やしています。さすがの財務省もいまはおとなしくしていますが、この騒ぎが収まった後はきっとまたポジショントークを大々的に展開するでしょう。そして、その余波はもしかしたら公共事業予算にも押し寄せてきます。公共事業向けの仕事をしている割合の多い私たちが「経済対策のためには公共事業予算を増やせ!」といくら言っても、それは我田引水ととられるだけ。我々がつくるものが災害から人々の命を守り日々の生活に役立つようにし、安全で利用しやすい住環境や国土を子孫に残していく。災害が多くて利活用できる面積がさほど大きくはないこの国で、そのような価値をつくるお手伝いができることが我々の存在意義ではないでしょうか。ですから、そのような価値が日本にとっては必要不可欠であることを主張しつづけなくてはなりません。そして、その価値をつくることを粛々と実行していきましょう、落語でも聴きながら。

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