変化をチャンスに

週刊ブロック通信論説委員 大月 隆行

ランデス株式会社 代表取締役

 新年明けましておめでとうございます。昨年は、コロナ禍の第3波への対応から始まり、第5波が落ち着いた状況で年末を迎え、新年の新たな展望に期待していましたが、新年早々から、オミクロン株による第6波の感染が一気に広がり始めています。昨年に引き続き、コロナ感染への万全の備えをしての年始めとなりました。ウィズコロナではあっても、一刻も早く安定した社会・経済が復活することを願うばかりですが、まずはコロナ感染への最大限の対処をしながら、皆様にとって本年が素晴らしい一年となりますようお祈り致します。

 さて、大企業のアンケートでは本年の景気は拡大局面にあるとする企業が70%以上である。又、帝国データバンク調査では、今年の景気への懸念材料として、第1位が原油・素材価格(上昇)、第2位が感染症による影響の拡大、第3位が人手不足、第4位が中国経済、第5位が物価上昇(インフレ)となっている。オミクロン株の感染が蔓延する前の調査であるため、第1位に原油・素材価格の上昇がランクインしていることが特徴的である。因みに昨年の第1位はコロナ感染症であった。

岸田新政権では、「新しい資本主義」で成長と分配の好循環を目指すとしている。「分配」においては、日本では、過去30年間で賃金が4%しかアップしていない現実に対して、産業界に賃金アップを要望している。所得格差を是正すると共に、消費を喚起することによって好循環景気を目論んでいるが、成長無くして分配を増やすことができないことは自明の理である。

 プレキャストコンクリート製品(以下PCa)業界にあっても、すでに原油や鉄筋価格は上昇し、物流コストや原材料であるセメント、骨材、その他諸資材の価格上昇の要望がサプライヤーから提示されている。賃金アップへの取組は、インフレ懸念の中で社員の生活を守る意味でも、雇用確保の観点から見ても必須事項であるが、いずれも大幅な原価アップにつながる経営上の重大事である。各社ごとの生産性向上やコストダウンへの企業努力がまずもって必要であるが、顧客への誠意ある説明で適正価格へのご理解をいただく努力も必要である。

 一方、「成長」戦略では、国土強靭化加速化予算が確保されており、16ヶ月予算で建設事業の切れ目のない執行がなされていることは有難い。そして、国の長期の成長戦略として、2050年カーボンニュートラル(以下、CN)の実現へ向けた「グリーン成長」とDX(デジタルトランスフォーメーション)によって地方創生を目指す「デジタル田園都市国家構想」が掲げられている。

 一昨年、菅総理大臣によって、2050年CN宣言が為され、日本では一気にグリーン成長への動きが始まった。経済産業省では、グリーン成長戦略の大分類として、エネルギー関連産業や家庭・オフィス関連産業、輸送・製造関連産業が揚げられ、その中の14分野に、「カーボンリサイクル産業」としてコンクリートの名前が記載されている。コンクリートには、CO2を原材料として使用するCCUS(カーボン・収集・活用・貯蔵)としての可能性が期待されており、グリーン成長産業の一角に位置付けられている。コンクリートにとっては正に僥倖である。

 政府では現在、カーボンプライシングに関する協議がなされており、具体的には、「炭素税」と「排出権取引」によるCO2の価格化によって、GHG(温室効果ガス)の削減を市場原理を活かして推進する方策である。このことによって、産業構造の大転換が進み始めることになるが、産業界はグリーン成長という大きなチャンスを得る一方で、大きなリスクにも向き合うことになる。又、既にESG(環境・社会・企業統治)投資が世界の企業を動かし始めており、日本企業はその対応が喫緊の課題となっている。

 昨年6月に経済産業省からの要望で日本コンクリート工学協会に「カーボンリサイクル委員会」が組織され、CO2固定量の測定法に関するJIS化への協議が進み始めている。又、昨年12月に土木学会にて、CO2の削減と固定を対象とした「CNに向けたコンクリート分野の新技術活用に関する研究小委員会」が2年の期間で開始された。全コンは、2012年にPCa業界を代表して「コンクリートサスティナビリティ宣言」をしていた経緯から、両委員会に参加しており、PCaのCNへの新たな動きが始まっている。

 コンクリートのライフサイクルを通じた評価として、欧州ではISO13315(コンクリート及びコンクリート構造物に関する環境マネジメント)の規格化が進められており、既にその一部は翻訳規格としてJISQ13315として制定されている。PCaは、i-constructionのコンクリート生産性向上検討協議会において、全体最適の観点から、VfMとして、時間短縮や省力化、安全性等の価値を経済価値に繋げる方策の検討が進んでいるが、加えてCNへの有効性が経済価値で評価されるようになることで、PCaの一層の優位性が高まるものと期待する。

 CNに向けた産業構造の大転換は、何もしなければ大きなリスクになるが、前向きに取り組むことで大きな成果が得られる契機でもある。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の諺のごとく、チャレンジ精神でこの変化をチャンスにする年にしたい。

読者の皆様のご健康とご多幸、そして各社のご繁栄をお祈り致します。

 

 

 

 

 

 

 

 

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