年末雑感  

週刊ブロック通信・論説委員 本間丈士(共和コンクリート工業 代表取締役社長)

 2022年も年末を迎えた。「今年の漢字」は2001年9.11以来21年振りに「戦」に決まった。振り返ると、3年が経過しつつある新型コロナパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻、世界インフレ、エリザベス女王崩御など暗い出来事があった。国内では、新型コロナ感染拡大、知床観光船沈没事故、安倍元首相の銃撃、五輪汚職、旧統一教会問題などがあった。石原慎太郎、藤子不二雄(A)、三宅一生、森英恵、アントニオ猪木など著名人の逝去も続いた。

 明るい話題では、北京五輪の日本勢活躍、フィギアスケートGPファイナルの史上初三冠、藤井聡太最年少五冠、囲碁・藤田怜央君9歳4ヶ月で最年少プロ、佐々木投手の完全試合、サッカーW杯の熱戦、ハヤブサ2の成功、西九州新幹線開業などがあった。成人年齢の18歳への引下げ、東証新区分、経済安保法、日大理事長に林真理子氏、参院選の与党勝利、32年振りの円安、東工大・医歯大の統合合意など大きな出来事もあった。業界における大きな問題は、諸物価の高騰への対策と価格転嫁にあった。現在も、電力・石油・石油製品などを始め諸物価の高騰は続いている。この諸物価上昇の要因を分析した「世界インフレの謎」(渡辺努著 講談社現代新書)が最近発刊された。

 著者は、2022年のウクライナ侵攻以前の2021年春頃から先進国でインフレ率が上昇しており、インフレの要因はパンデミックにあり、ウクライナ侵攻がインフレの要因ではないと主張している。また、パンデミックにより世界的に1)消費者の行動がサービス消費からモノ消費にシフト、2)欧米を中心としたシニア層の早期退職と女性層の自発的離職、3)グローバル供給網での隘路の発生、という3つの後遺症があり、現在進行している世界インフレは過去に起きた需要過剰によるものではなく、供給不足を要因とする新たなインフレとの見方をしている。また、諸物価高騰は新たな価格体系へと世界経済が移行する過程で発生している現象だとしている。一方、日本経済については長年の慢性デフレと急性インフレが混在している状態にあると分析している。

 供給不足による今次世界インフレの収束、新たな価格体系への移行、日本経済の慢性デフレと急性インフレの解決など先行きには不透明感と不確実性がある。しかし、今後に起こり得るシナリオの1つとして考えるべきではないかと思われる。

 業界全体に影響の及ぶカーボンニュートラルと耐久性についても様々な動きがあった。2021年の業界と国交省との意見交換会で説明があったVFM評価について今年はさらに具体化が進んだ。一方業界においても、蒸気養生したプレキャストコンクリート製品の耐久性の検討が行われた。セメントを産業副産物により高置換した材料、ジオポリマーの実用化研究、コンクリート製品にCO₂を吸収・固定化する技術、蒸気養生を行わない養生方法、LPGボイラーの活用など脱炭素化の取組が活発に進められてきた。

 また、高炉スラグ微粉末を55%以上に高置換した低炭素型コンクリートの活用モデル工事の試行が開始された。来年はコンクリート標準示方書の改訂があり、蒸気養生したプレキャストコンクリート製品の耐久性について議論されていると聞く。今後も実験などにより、具体的な検討を積極的に進めることが重要だと思われる。

(公社)全国土木コンクリートブロック協会では、2021年3月に(国研)土木研究所との共同研究の成果として、「大型ブロック積擁壁の設計・施工・維持管理の高度化に関する共同研究報告書」を発刊した。共同研究報告書では、積ブロックの控長を35cmのまま大型化したブロック積擁壁を布積とする場合の構造特性として、積ブロックが胴込めコンクリートと一体化しやすい形状であること、適切に胴込めコンクリートが配されていることが重要としている。全協では、共同研究報告書をもとに「積ブロックの構造特性確認マニュアル(案)」の作成を進めている。ここでは、積ブロックと胴込めコンクリートの一体化、上下のブロック同士の接合部における躯体断面積などについて具体的に検討されている。今後は、「大型ブロック積擁壁の設計・施工・維持管理の高度化に関する共同研究報告書」及び「積ブロックの構造特性確認マニュアル(案)」の活用と普及に努めていきたい。

 カーボンニュートラル、蒸気養生したプレキャストコンクリート製品の耐久性、VFM評価など業界全体として取り組むべき課題がある。さらに、世界インフレへの対応策が求められている。2023年は、業界の一致協力が引続き一層重要になる年になると思われる。昨年は世の中の「村上さん」が「村神様」になり流行語大賞にもなった。業界の発展と各社のご隆盛には、業界各社の「村神様」にお縋りするのが一番かもしれない。「村神様」よろしくお願いします。

週刊ブロック通信の購読申し込み

CTA購読申し込み画像
「コンクリート製品業界に関連するするニュースをいち早く・幅広く」お手元に届けることを心がけ、「週刊ブロック通信を読めば、この一週間の業界の動きが全て分かる」紙面づくりを目指しています。