PCa製品のプレゼンスを高めるとき  

週刊ブロック通信・論説委員 大月隆行(ランデス株式会社 代表取締役)

2023年が幕を開けた。

 コロナパンデミックは、スペイン風邪の流行以来の約100年ぶり、ロシアのウクライナ侵攻は、第2次世界大戦から約80年。いずれも予測困難な突如起きた歴史的な出来事である。経済においては、世界はエネルギー、資材、食料等のサプライチェーンの混乱でインフレ傾向に進み始めている。日本では昨年10月、1990年以来の32年ぶりに150円台の円安水準となり、11月には1981年以来40年11か月ぶりに消費者物価指数が3.7%を記録するなど、正に時代が逆戻りした感のある、歴史的な転換を示唆する出来事が次々と起きた。

 地球環境問題に関しては、1972年にローマクラブによる「成長の限界」の発表。それから20年後の1992年に地球環境サミットにおいて持続可能な開発、生物多様性保全の宣言。2015年にパリのCOP21にてSDGs(持続可能な開発目標)の宣言と、こちらも50年かけての合意形成への努力と価値観の転換への動きである。幾多の自然災害や外圧によって目覚め、国民が協力して新たな時代を築いてきた日本。今、新しい資本主義への取組みなど、大きく社会・経済が変わるチェンジへの挑戦の時を迎えている。しかし、戦争という非人道的な暴力によるチェンジはごめんだ。

 コンクリートの歴史では2000年程前のローマンコンクリートが紹介されることが多いが、鉄筋コンクリートが開発されてからは約170年、日本では 広井勇博士の指導で構築された、小樽港の北防波堤のプレキャストコンクリートが約110年であり、レディ―ミクストコンクリートは1949年から始まり73年。その後、日本の近代化、高度経済成長を支えたインフラ整備の主役として多く活用された。しかし、1980年代からトンネルのコンクリート崩落を端緒に、コンクリートクライシスが言われ、1990年代初頭には、当時の建設省においてさえ「コンクリートの見えない川づくり」を宣言、その後は記憶に新しい「コンクリートから人へ」など、公共事業バッシングや公共事業ムダ論、公共事業のB/C論などが議論され、公共事業のコスト縮減策(1997年~2012年)等の流れの中で、社会の様々なひずみや人々の不満を一手に引き受けたのがコンクリートという無口な材料だった。一転したのは、2011年の東日本大震災で、安全、平和ボケ日本の目が覚めた形だ。

 その過程で、コスト縮減策を15年の長期間に亘って行う中で、PCa製品の価格は需要の減少も相まって大変厳しい低迷期に入った。公共事業そのもののコスト縮減への大合唱の中、入札は一般競争入札制度で低価格入札になり、労務費も資材の積算価格も低く抑えられた。2014年の品質確保法の成立を背景に、政策的に設計労務単価は上昇しており、10年間で約1.6倍に上昇しているが、PCa製品価格は過去に取引された価格を調査し、実勢価格として予定価格に採用する仕組みであり、コスト縮減策当時の制度が今日まで続いている。一昨年の下半期から始まったエネルギー、セメント、鉄筋などの価格が上昇する中で、国土交通省は調査頻度を上げるなどの対策を各地方行政へ通知しているものの、実態として、機動的な積算価格への反映は行政単位でバラついており、十分に対応されていない。コスト縮減策により、短期的に付加価値を生まない仕事になることで、賃金給与が長期にわたって低迷している。このことが、有効需要を創出する筈であった公共事業が経済波及効果を生まなかった主因ではないか。PCa製品の生産者から価格見積を徴収し、実勢価格の調査との両建で予定価格を協議決定して積算価格とする方法への転換は、原材料価格の上昇への対応のみならず、賃金アップ、人材確保の観点からも大変重要な課題だ。

 本年は、土木学会のコンクリート標準示方書2022年版が発刊される予定である。PCa製品の耐久性照査は、水分浸透速度係数によって行うとの方向性が示され、PCa業界で各地域のメーカーによって生産されたPCa製品の水分浸透速度係数試験を行った結果、一般に水セメント比の小さいPCa製品は問題が無いとのことである。養生方法と耐久性とかぶりの関係など、PCa製品の優位性を定量的に示すには、業界として一層のデータ蓄積が必要であると考える。i-constructionのコンクリート工の生産性向上に資する「品質を確保したPCa製品」が本格的に採用されるためには、強度のみならず、耐久性が備わっていることが必要であり、PCa製品の耐久性に関する規定がコンクリート標準示方書に記述されることは、PCa製品の大型構造物の信頼度を高める上で一歩前進である。又、VfMの観点から検討されている、時間コストや省人化、施工安全、環境負荷の低減の大前提として耐久性を照査することは必須の要件であり、PCa製品にとって、社会的な信用の裏付けとなる基盤ができることを期待する。

 日本は、想定を超えるスピードで出生数が低下しており、人口減少がますます急速に進むことが懸念される。建設業の生産性向上への貢献、良質なインフラの構築、カーボンニュートラルへの貢献など、PCa製品にはこれまで以上に大きな期待が寄せられている。 今、時代の大転換の只中であるが、本年は、PCa製品の次なる時代への飛躍の土台が形作られる年。2024年からの建設業の働き方改革への取り組みは、正にPCa製品にとっての大きなチャンスであり重大責任でもある。当業界がシッカリと連携して、時代の要請に応えられる業界へと大きく着実に歴史的一歩を踏み出す年でありたい。2023年の皆様のご健勝にてのご活躍とご多幸をお祈り致します。

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