アメリカコンクリートブロック業界の近況報告  

                                      タイガーマシン製作所 取締役会長 北原哲五郎

このほど4年ぶりにアメリカブロック協会年次総会へ参加し、たくさんの収穫を得ることができました。その中から特に注目すべき2つの大きな話題を皆様に報告したいと思います。

1.即時脱型コンクリート製品、2大業界団体が統合しCMHAが始動

アメリカでは約100年に渡り、建築ブロック業界が団体(NCMA、National Concrete Masonry Association)を設立してブロックの普及活動を続けていましたが、1970年代の最盛期をすぎて需要の長期低落が始まりました。対応策として、当時2つの選択肢がありました。一つは乾式土留めブロック、もう一つがドイツの機械メーカーが持ち込んだ舗装ブロックでした。この時、NCMA執行部は、型枠さえ用意すれば建築ブロック製造設備をそのまま使用できる乾式土留めブロックを選択し、市場開拓に乗り出しました。舗装ブロックを推進したい人達はNCMAに参加せず、新たにICPI(Interlocking Concrete Pavement Institute)という団体を設立し、その後、NCMAとICPIがそれぞれ活動する時代が続きます。

 建築ブロックメーカーは、粗利の大きな土留めブロックの普及に力を入れ、業界全体とすれば成長を続けますが、建築ブロックの低落は止まりませんでした。舗装ブロックメーカーは、大型のテーブル振動マシンを使い、舗装ブロックだけでなく土留めブロックにも参入し、型枠振動マシンで土留めを生産するメーカーを圧倒します。そこで建築ブロックメーカーもテーブル振動マシンを導入して舗装ブロックと土留めを量産します。次第にNCMAとICPIのメンバーが重複するようになり、「同じ即脱技術で製造するのになぜ両団体が並立しているのか」、という議論が始まります。数年の協議のすえ両団体の合併が決議され、名称をCMHA(Concrete Masonry & Hardscapes Association)としました。Concrete Masonryは建築ブロック、Hardscapesは土留めと舗装ブロックのことです。

 2022年7月1日、ブロックメーカー約135社が参加してCMHAが始動しました。現在アメリカのメーカー数は約200社ですので、組織率は約65%となります。NCMAのプレジデントであったロバート・トーマス(Robert Thomas)氏がプレジデント兼CEOに就任していますが、彼によると、メーカー以外も含め会員数は約300社。2023年の実績は、建築ブロックが約12億個、舗装ブロックが約8000万㎡です。

2.建築ブロック業界が起死回生策

巨額のマーケティング支援資金調達体制を確立

 NCMAは、建築ブロックの需要下落が始まった当初は、土留めブロックが好調だったこともあり、具体的に何か対策を講じることはありませんでした。その後も舗装ブロックに参入することで全体とすれば業界は成長を続けていました。しかし、2000年代に入り土留めブロックの成長率が低下し始めると、特に型枠振動マシンで建築ブロックを主に生産する中小メーカーは危機感を強くします。こうした中小メーカーを多く抱えるNCMAは15年前から対応策を真剣に検討するようになり、具体的なプランをもって国会議員に陳情します。諦めずアメリカで言うロビー活動に力を入れ続けた結果、複数の議員が「優秀な建材である建築ブロックを衰退させてはならない」、とNCMAの提案に賛同し法律の原案を作成します。7年前から始まった国会での審議の結果、2年前に法案が可決されます。全建築ブロックメーカーを対象にした投票が実施され賛成多数で2022年12月18日施行が決まりました。CMHAトーマス会長との面談で得た、この画期的な法律の要点を簡単に説明します。

  • 法律名称:Concrete Masonry Check-off(建築ブロック天引き制度)
    • 管轄:Department of Commerce(商務省、日本の経済産業省に相当)
    • 法律の目的:

―国内の建築ブロック業界の立場を強化する

―建築ブロックを維持・発展させ、その市場を拡大する

―建物及び建物に係る土木工事におけるコンクリート製品の使用を促進する

  • 法律の施行、その後の運営に関する取り決め

―法律施行の可否は、全建築ブロックメーカーが投票権を持つ投票により決定する

―投票権は2種、例えばAとBとすると、A種は各社に1票、B種は各社の生産能力により投票数が割り当てられる。10cm3個取マシン1台所有なら3票、6個取1台なら6票、6個取り3台なら18票、と割り当てられます。

―法律の施行、修正、継続、廃止などは、各社が投票するA種、B種の投票総数が共に50%を超えると可とすることで決定される

―協会員、非会員を問わず、全建築ブロックメーカーに法律が適用され拘束される

  • 法律に基づく具体的なアクション

―法律の目的を達成する行動を主導する基金(ファンド)を設立する

―基金を運営する理事には、建築ブロックメーカーであればだれでも立候補でき(つまり、公募)商務省が選任する。ただし、ボランティア(無報酬)

―各メーカーは形寸法を問わず建築ブロック1個につき1セント(約1.5円)を基金に支払う(天引きが1個当り1セント。不払い社は建築ブロック業を廃業)

―天引き額は、投票により増減できるが、上限は5セント。

現在建築ブロックメーカー数は約120社(CMHA会員のブロックメーカー数は約135社)、生産総数が12億個ですから、この通称「マーケティングファンド」と呼ばれる基金の予算は、年間1200万ドル(現在のレートで約18億円)と非常に巨額です。

基金は、昨年10月には専門のマーケティング会社を選定し、活動を開始しています。

活動内容は、大学の建築学部でのブロック建築の講座開設、職業訓練施設でのブロック施工者の養成、建築雑誌や新聞・TVなどのマスコミでの広告宣伝、建築会社や建築設計事務所への資料提供、セミナーの開催などです。潤沢な資金があり、マーケティングのプロが取り組むとどういう成果を得られるのか、2,3年先が楽しみです。CMHA会長も、「2,3年先から成果が目に見えてくるのではないか」と言っていました。「5年、10年は継続したい」とも。

面白いのは、施行の可否を問う次の投票結果です。

 A種(会社数):賛成63%、反対37%、B種(生産能力):賛成54%、反対46%

実は、最大手企業のオールドキャッスルを除き、大手と言われるメーカーの中に反対する会社がいくつもある一方、中小のメーカーが揃って賛成票を投じたため、B種では可否が拮抗してしまいました。オールドキャッスルが反対すれば法律が成立しないかもしれない結果でした。自社で十分なマーケティング力を持つ大手企業の中には、資金負担をしてまで業界全体を底上げするマーケティング活動は不要と考えるところがいくつもがあったと言えます。その反面、中小のマーケティング力のない会社は、わずかの資金負担で大きな成果が得られる可能性に期待してほとんどが賛成したとみられています。

私は、全メーカーが天引きされるという法律の制度の公平性に注目すべきだと思います。全メーカーを法律で拘束できたから、こういう画期的な仕組みができたのでしょう。できるまであきらめずに努力を続け結果を出したNCMAの力を高く評価したいと思います。

実は、カナダの建築ブロック業界では、法律ではなく有志を募って同様の天引き制度を実現しようと努力し、5年前からブロック1個当りカナダドルで5セント(約5.5円)の天引きを始めています。マーケティングに資金を投下し市場拡大に努力した成果が出ているのだと思います。5年も続いているのですから。

以上2つの話題をご報告しました。アメリカやカナダ以上の速度で市場が縮小している日本の建築ブロック業界では今後どういう対応をするのか。私のご報告が何かのお役に立てば幸いです。

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