K君の家

設計/山之内裕一・山之内建築研究所

四回目は、「K君の家」を紹介する。障害を持つ子供K君とその家族のための家である。障害者も健常者も、子供も大人も全員が公平に暮らせる環境をつくること、これはユニバーサルデザインの思想そのものだ。

昨年9月、神戸大学の保健医療学科で単発の講義を受けもつことになった。医学部で保健医療を学ぶ学生に建築の考え方をレクチャーして欲しいというものだった。元はといえば、ユニバーサルデザインをテーマにした、とある勉強会(ホテル建設を目指している)に参加したのがきっかけだった。その延長線上で講義をすることになったのである。十年の長い時間をかけた勉強会の成果として、私には日常の設計の取り組みの中での格闘こそがユニバーサルデザインそのものだとの確信がある。講義では、提唱者ロン・メイス博士の考え方を軸に建築設計の観点から話をさせていただいた。

「K君の家」は、介護のバリアーをなくすことが計画に求められた。日常生活の全般にわたり家族の介護を必要とするK君である。K君は室内ではバギーと呼ばれる特別の移動用椅子に固定した状態で移動する。介護の中心となる両親の希望は、K君と共に快適に過ごせる家を得ることだ。具体的には、移動のために必要な幅を1m取ること、床の段差はなるべくなくすこと、使用材料は自然素材とすること等、であった。自然条件の厳しい北国であることから、寒暖差もできるだけなくす。K君は、床に寝そべった状態でいることが多いので、床暖房をすること。室内条件は、事細かく規定された。それらは、介護し続ける両親の工夫とアイディアに私たち建築家としての経験を重ね合わせて生まれたものだった。

K君は、家での生活時間が長いため、室内にいても季節ごとの戸外の様子がわかるようにと考えた。居間と食堂の上部は吹き抜けとし、2階と一体の空間とした。居間や食堂にいると吹抜け頂部の屋根窓から落ちる自然光が刻刻と時間の経過を伝えてくれる。ほぼワンルームになっているため、居間や食堂にいるだけで家族全員の様子が手に取るようにわかるのである。

外部では冬場の堆雪のためのオープンスペースに、ウッドデッキが設けられ、スロープで居間と道路に接続された。夏は、ここが第二の居間として利用され、K君お気に入りの場所になっている。 躯体は、コンクリートブロック外断熱工法二重積みである。地下はコンクリート造、外断熱仕様の躯体に、2階はツーバイ材を正三角形に組んだ木造を載せた混構造である。暖房システムは、灯油焚きボイラーで作った温水をコンクリートスラブに埋設した樹脂パイプ中に循環させている。スラブと共に外断熱したコンクリートブロック壁にも蓄熱し、柔らかく優しい温熱環境の構築に役立っている。

K君の家  詳細情報

  • 所   在 :札幌市南区北ノ沢
  • 構造・規模 :補強コンクリートブロック造一部木造、地上2階地下1階
  • 敷地面積 :255.07㎡
  • 延床面積 :166.40㎡
  • 設計監理 :山之内建築研究所/山之内裕一
  • 施   工 :内池建設札幌支店
  • 竣  工 :1997年
  • 撮   影 :半村隆嗣

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