コンセプトが生きた家

設計/山之内裕一・山之内建築研究所

今回は、竣工後20年を経た住宅をご紹介する。ある日、久しぶりにクライアントの聞き覚えのある声で連絡が入った。窓まわりに不具合があり、見てほしいという。後日、訪問することにした。住宅の位置する高砂町は、北海道の太平洋側にある港湾工業都市室蘭市の一画。緩やかな坂道に面した静かな住宅地だ。自分で設計した住宅ではあるが、10年以上も訪れていないので無事にたどり着けるかどうか不安もあった。近づくにつれて、見覚えのある街並みが視界に入ってくる。間もなく特徴のある外観をとらえた。コンクリートブロックの外壁は、時間を経てさらに風合いを増しているように感じる。快く出迎えてくれたクライアントに挨拶をして、すぐに窓まわりの不具合を確認。施工を担当した地元の工務店の担当者も駆けつけてくれた。ほどなく改善の方向性が決まった。一安心である。

20年前、新築にあたってクライアントから要望されたのは、冬暖かく夏涼しい家にしてほしい、というものだった。それだから住宅のコンセプトは、そのまま寒冷地にあって「暖かく長持ちする家」となった。耐久性の部分は、壁式構造のコンクリートブロック壁が受け持った。また断熱性の部分は、外周壁にフォームスチレンボードを外貼りした外断熱工法とし、大きな躯体蓄熱効果を得ている。さらに大きな開口部は、すべてトリプルガラス入りの木製サッシを採用した。主要な窓を開閉可能にしているため、夏場の通風も問題ない。当時のフルスペックで設計した住宅であった。20年目のこの日、現場を訪れる機会を得て、「暖かく長持ちする家」のコンセプトが間違いではなかったことを確信した。もちろん、クライアントの日常の愛情あふれるメンテナンスや工務店の丁寧な施工のお蔭であることは言うまでもないのだが竣工当時と少しも変わらない佇まいは、それでなくても久しぶりの再会に高揚していた私を感動させた。住宅は、そうした日々の歴史を受け止めつつ今日もそして明日も生き続けるのである。

高砂町の家  詳細情報

  • 所   在 :北海道室蘭市
  • 構造・規模 :補強コンクリートブロック造一部木造、地上2階建て
  • 敷地面積 :280.38㎡
  • 延床面積 :154.76㎡
  • 設計監理 :山之内建築研究所/山之内裕一
  • 施   工 :内池建設株式会社
  • 竣  工 :1994年
  • 撮   影 :半村 隆嗣~掲載誌:ハウス&ホーム(1996年5月号)

週刊ブロック通信の購読申し込み

CTA購読申し込み画像
「コンクリート製品業界に関連するするニュースをいち早く・幅広く」お手元に届けることを心がけ、「週刊ブロック通信を読めば、この一週間の業界の動きが全て分かる」紙面づくりを目指しています。