ブロックが坂の景観をつくる

設計/山之内裕一・山之内建築研究所

今回の住宅は、北海道の観光地として有名な小樽市に位置している。今でこそ、小樽観光の中心となった小樽運河、実はその運河に存亡の危機があった。

1970年代の景観論争のひとつに小樽運河がある。明治大正の経済的な隆盛期を海運で支えたのが小樽運河だった。しかし戦後の高度経済成長期には、もはや無用の長物となっていた。計画では運河を埋立て、高速道路をつくる。そこに、スクラップアンドビルドの弊害を唱えて待ったをかけたのが景観論争であり運河保存運動でした。ちょうどその頃、北海道で建築の仕事に就いたばかりの私は、同年代の若者たちとのコミュニケーションを求め、いつしかその輪の中に紛れ込んでいた。数多くの良心派の重鎮や論客が全国から駆け付けた。その中で、地元出身のとある建築家の言葉が記憶に残っている。小樽は天狗山と言う高所から日本海に向かってちょうど手の指のように伸びた幾筋の坂道が独特の景観をつくっている。その坂道を高速道路が分断してはいけないというものであった。小樽は、坂の町である。

今回ご紹介する住宅は、そうした日本海を見渡すことのできる敷地に計画された。敷地のある入船町は、今でも視線を屋根まで持ち上げると、日本海に視界が開ける。そこで、階段室の最上部に屋根を突き抜くような明り取りと踊り場を兼ねた海の展望台を設けた。後年、漁家集落を研究するなかで、たしかに番屋と呼ばれる漁家住宅では、明り取りや煙出しの目的で、こうした上屋を屋根に載せているのが確認できるのである。誰にでも了解可能な地域の形態とも呼べるような、番屋のアイコンを備えていたのである。平面計画上も階段室は重要な位置を占めており、二世帯住宅である二戸の住宅を柔らかくつなぐバッファーゾーンとして機能している。構造は、地階をRC造、一階を補強CB造、二階をツーバイフォー工法のタルキ小屋組木造とする混構造を採用している。それぞれ根拠のある選択によりローコスト化に役立っている。

小樽入船の家  詳細情報

  • 所   在 :北海道小樽市入船町
  • 構造・規模 :補強コンクリートブロック造一部木造、地下1階地上2階建
  • 敷地面積 :558.00㎡
  • 延床面積 :356.12㎡
  • 設計監理 :山之内建築研究所/山之内裕一
  • 施   工 :沼田建設株式会社
  • 竣  工 :1992年
  • 撮   影 :安達 治

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