煙突と太陽光パネル

日々の社会情勢が日常生活に直接響く。特に自然災害は私たちの日々の暮らしに直接的に影響し、暮らしの器である住宅そのものにも変化をもたらす。今回は、そうした社会情勢に敏感に向き合い住宅を改変している事例の紹介です。25年前、1995年の阪神淡路大震災の教訓から、新築の際に強固な構造を設計条件にしたクライアントです。私の提案は、断熱材を挟み込んだ二重積のコンクリートブロック矩形平面を1階に、三角プリズム状断面のモノリシック構造で横長の一室空間を2階に載せる構成としました。堅牢な構造と高断熱を実現したのです。そして2011年の3・11、東日本大震災は、クライアントに電力需要の見直しを気づかせ、カーポート屋根に太陽光パネルを設置しました。その結果、オール電化住宅を維持するために必要な電力の70%以上を自給しています。2018年の北海道東部地震では数日間の大停電を経験。日中は太陽光パネルで冷蔵庫などは稼働できたものの、蓄電池設備のあるオフグリッドではありません。その心細かった教訓から「薪ストーブ」を検討したいとの相談が寄せられたのでした。クライアントの地域は木材王国、薪用の板材が安価で入手可能なのも追い風になった。冬場の生活利用目的で広めに取った玄関土間ホールに、クライアントお気に入りの薪ストーブがおあつらえ向きに設置された。屋根を煙突が突き破り、外観はいかにも北海道の郷愁を誘う風情です。玄関土間ホールは吹抜けで、薪ストーブ一台で2階を含めた住宅全体を暖房している。社会情勢と暮らしの変化に、技術革新とクライアントの欲望が向き合っている。建築家は、クライアントの意思を受け止め技術的改修ポイントを探ってきた。現在の新型コロナショックで、住宅にどのような改変が始まるのだろうか。

(山之内裕一/山之内建築研究所)

2020年4月20日第3085号

煙突と太陽光パネル 詳細情報

  • 作品名:厚沢部の家(あっさぶのいえ)
  • 所  在:北海道桧山郡厚沢部町
  • 構造・規模:補強コンクリートブロック造一部木造、2階建
  • 敷地面積:352.47㎡
  • 延床面積:195.56㎡
  • 竣  工:1995年(改修2020年)
  • 設計監理:山之内建築研究所/山之内裕一
  • 施  工:小林建設
  • 撮  影:半村隆嗣(既存全景のみ)

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