一年を振り返って

週刊ブロック通信論説委員 本間 丈士

共和コンクリート工業株式会社 代表取締役

 新型コロナ感染症拡大が続いた2021年も早いもので年末を迎えた。今年は、感染拡大2年目となった新型コロナ感染症の他にも様々な出来事があった。東京オリンピック・パラリンピックの開催、10月4日の岸田内閣発足、地球温暖化を科学的に予測した真鍋淑郎氏のノーベル物理学賞受賞、奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島の世界自然遺産登録。札幌在住の筆者としては、北海道と北東北の縄文遺跡群の世界文化遺産登録も嬉しいニュースだった。

 東京オリンピック・パラリンピック、東京2020の大会ビジョンは「全員が自己ベスト」「多様性と調和」「未来への継承」だった。聖火ランナー最終走者は、テニスプレーヤーの大坂なおみ選手。ハイチ系アメリカ人の父と日本人の母、大阪出身、アメリカで成長し日本語は不得意、日本人の多数派と異なる外形、この大坂選手は日本国籍を選択した立派な日本人だ。NBAプレイヤーの八村塁選手、女子バスケットの馬瓜エブリン選手、柔道のウルフアロン選手も日本人。「日本が好きです。日本人として死にたい」と言って2012年に帰化した日本文学の研究者ドナルドキーン氏も素晴らしい日本人だ。

 また、LGBTQを公表したオリンピック選手は182人と史上最多となり、史上初めてトランスジェンダーの選手が出場した。日本では、LGBTQの人達は人口の10%に近いとも言われる。パラリンピックでは、障害者は人口の15%ということから#WeThe15が展開された。アスリートの皆さんは、多くの感動的な姿を見せてくれた。同時に東京2020は、日本を含めた社会が多様な社会であることを広く示した。企業においても、ダイバーシティ&インクルージョンが大きな経営課題であることを強く認識させられた。

 さて、新型コロナ感染症拡大は、オミクロン株の動向など予断を許さないが、ワクチン接種の進展で経済活動の緩和が進んでいる。これによって、石炭・天然ガス・原油などエネルギー価格が高騰しており、セメントメーカー各社は、12月から来年4月にかけて2000~2400円/tの値上げを表明している。国内の鉄スクラップ価格は、中国・ベトナムなどの購入増加により1年で2倍以上になっている。中国は、CO₂削減対策として電炉の活用を進めていると報じられている。これによって、概ね2~3割の鉄筋価格上昇となり、今後の価格上昇も予想されている。重油・軽油・ガソリン・油脂類などの価格も上昇している。コスト上昇による採算性の悪化、企業収益の悪化が進んでいる。企業努力を超えるコスト上昇は、確実に価格転嫁することが原則であり、必要である。

 また、日銀が12月10日発表した11月の企業物価指数は、41年振りに前年同月から9.0%の大幅上昇となった。コスト上昇は、コンクリート製品業界だけではなく、日本の産業界全体に及んでいる。一方、最近の欧米と日本の株価の差は、日本企業の価格転嫁力が弱い為だというエコノミストもいる。政府が求める賃金引上げのための原資確保にも価格転嫁が不可欠であり、重要と思われる。

 コロナ禍の中、例年より遅れたが、11月9日に「令和3年度コンクリート製品業界と国交省との意見交換会」が国交省のご尽力によって開催された。配布された資料については、ご覧になった方も多いと思う。この中で「コストを意識しつつも、VFMの考え方を取り入れる」ことが示され、近畿地方整備局・北陸地方整備局の事例が発表された。また、令和5年度にはVFM概念の確立と実行というスケジュールが示された。Pca製品の採用については、コンクリート製品業界が要望する段階ではなく、VFMの確立と実行という課題に業界が積極的に対応する段階になり、ステージが変わったと感じられる。また、「プレキャスト製品の現場適用における品質管理方法」についても国交省から発表があり、今後の方向性として「国のPca製品の品質管理方法」とRPCAや北土コンの民間審査制度を比較検討し品質管理方法の簡素化が示された。今までのRPCAなどの継続的取組みの具体的成果と思われる。

 この意見交換会では、コンクリート製品業界のCO₂削減対応について、国交省から報告を求められた。2020年10月、菅総理は「2050年カーボンニュートラル宣言」を行ない、2021年6月経産省は「2050カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の改訂版を発表し、より具体化させた。国交省は、2021年7月「国交省グリーンチャレンジ」を発表した。意見交換会で取り上げられたことは、コンクリート製品業界においても取組みを強めていく必要があることを示している。また、DXについても取組状況の報告を求められ、BIM/CIMを中心に情報提供を行っている。

 コンクリート製品業界は、既に取組んでいる耐久性の課題など、今後も技術面の課題に積極的に取組むことが、今後の需要の確保に重要と言える。コンクリート製品業界は、重量物の運搬を行うため、地域密着産業の性質を強く持っている。地域密着で事業を営む業界各社が一致協力してきたことが、VFMなど具体的になりつつある。これからも、一致協力し業界全体の課題の解決に引続き務めることが期待される。

 

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